「あんたたちは、何にもしてくれない。」
父が電話でそう言った。
何にもしてくれないってなに?
未だ自分でやろうとしないところに、腹が立った。
が、だんだん怒るのもあほらしくなった。
どこへ行ってどう相談するのか、常にアドバイスをしてきた。
なのに、何一つやろうとしない。
そして、
「あんたたちは、何もしてくれない。」
だ。
仕方が無く、相談窓口の電話番号を調べ、
ここに電話しろと、メモを渡した。
母は認知症だ。
話すと普通だが、物忘れが激しく、おしっこも漏らしてしまう。
父は、そんな母が許せなくて、怒るらしい。
怒るだけで、公の場所に電話するでもなく、相談するでもなく、
オムツを買ってくるでもなく、
誰かがやってくれるのを待っているだけ。
手を貸してしまうと、何もかもやらされてしまうのがわかっているので、
わざと手は貸さなかった。
電話をすると、すぐに看護師さんが来てくださった。
母は、熱中症の気があったそうだ。
それで起き上がれなくなっていた。
看護師さんが、色々介護してくださっているところに、
私が手を貸す。
当の父は、リビングで座っているだけ。
いやいや、あなたも一緒にいて手伝うのが本当だろが。
さんざん文句言って、これだから。
「しっかりしてた人だから、あんな風になって、ショックだった。」
と、父が言う。
「私だって、あんな母親の姿見せられて、ショックだよ!」
と言い返した。
実は、そんなにショックではない。
私は既に、父にも母にも、何の希望も期待ももっていないからだ。
歳をとって、なるようにしてなっただけ。
父は、いつまで母に自分のことを面倒見させる気だったんだろう。
何にもできないからと、何もしようとしないのは、おかしいとは思わないのか?
でも、
公の所にお願いすれば、ちゃんと手を貸してくれるんだということに、
ひどく安堵した。
『口角をあげて』
今、これが私の目標だ。
昔は、嫌なことがもっと多かった。
自分自身の性格に難ありだったからかもしれない。
だけど、そうじゃないことも多々あったと思う。
理不尽に貶されたり、虐められたりもした。
不機嫌な顔をしていれば、誰も寄ってこないと思って、
ずっと口角を下げて、『への字』の口をしていた。
でも、今は、いつも笑っていたいと思う。
たとえ、笑っていられないときでも。