ずっと住んでいたのは大きな繁華街がある所だった。
高いビル、大きな百貨店、様々なお店。
夜になると、様々な色のネオンやビルの窓からこぼれる灯り。
流れる車のライト。
その繁華街の中に住んでいたわけではないが、家からは一際大きなビルが見えていた。
夏になると、たまにだが、潮の香りがした。
風に乗って、海の匂いがしていた。
何ヶ月か前に夢を見た。
どこかを目指して歩いているのだが、どこを目指しているのかわからない。
どこへ行きたいのかもわからない。
ただただ歩いていると、見慣れた道を歩いていることに気がついた。
ずっと住んでいた家に向かう道だった。
現実にはその家はまだそこにあるのだが、今は違う人が住んでいる。
夢の中で、家までの道を辿った。
そう。
ここを真っ直ぐ行って、信号を渡って、右へ曲がればその家はあるはず、だった。
家は、なかった・・・
家のあった辺りに、大きなマンションが建っていて、大きなエントランスになっていた。
悲しかった。
夢の中で、大声で泣いた。
そして自分の泣き声で目が覚めた。
特に何も思い入れはない。
強いて言うならば、あの都会の景色が懐かしい、ということだろうか。
ずっと見ていた夜景を描いてみるが、これじゃない感が半端なく。
あの景色はもう、記憶の中にしかない。
たぶん、写真も撮ってない。
近くの繁華街のビルから撮った写真はインターネットの中にいくつもあるが、
どれも記憶とはかけ離れている。
あの景色が好きだった。
でも、少し高いマンションができて、
私の好きな景色は、半分になってしまった。
あの景色は、もう二度と見られないだろう。